Accipiter Volume 15 (2009)

論文

水田における農作業がケリの繁殖活動に与える影響ついて  河地辰彦

栃木県大田原市湯津上の水田地帯で2007年から2009年の繁殖期に、農作業がケリの繁殖活動におよぼす影響を明らかにするために、カラーリングによる個体識別に基づいてケリの繁殖行動を調査した。調査地では2007年には7つがい、2008年には8つがい、2009年には15つがいが繁殖し、合計43巣が確認された。3シーズンを通した一腹卵数は3.12±1.03卵(平均±SD、N=41)であった。一腹卵数は、早い時期に産卵された巣のほうが遅い時期のやり直し繁殖より有意に多かった。調査地のケリは繁殖期前半に田耕しや湛水など農作業による人為的撹乱を強く受けてほとんどが繁殖に失敗していた。ケリは繁殖に失敗すると直ちにやり直し繁殖を行ない、1シーズンに最高3回まで行なった。そのため繁殖期間が人為的撹乱の少ない近隣の繁殖地に比べて約1.5ヶ月長期化していた。131卵産卵されたうち孵化したヒナの数は24羽と著しく少なく、孵化したヒナのほとんどは繁殖期後期の産卵によるもであった。しかし、調査地では繁殖成績が悪いのにもかかわらず繁殖個体群が維持されてきた。今後は、調査地における餌資源量を明らかにすることで、調査地における繁殖個体群の維持について解明したいと思っている。


渡良瀬遊水地における標識調査報告(2008)  深井宣男・吉田邦雄・山口恭弘・人見潤

渡良瀬遊水地で実施している鳥類標識調査において、2008年は46種2,872羽が新放鳥または再捕獲された。100羽以上新放鳥された優占種は、オオジュリン、アオジ、カシラダカ、コヨリキリであった。過去10年の平均と比較すると、オオジュリンとアオジが多く、カシラダカとベニマシコが少なく、全体では種数が少なかったが捕獲数は多かった。優占種の構成に大きな変化がなかったことを考慮すると、本年の鳥類の渡来状況は例年と大きな変化はないと考えられる。

 

宇都宮市鬼怒川における長期モニタリング調査による鳥類の出現種の変化  樋口 弘

1993年から2008年までの16年間、栃木県宇都宮市の郊外の鬼怒川8kmの範囲で、隔月に毎年6回、鳥類の調査を実施した。その結果調査地では合計81種を記録した。調査期間を通した各種の出現率は、種によって著しく異なっており、記録率が高い種は留鳥であった。調査期間で主要な23種の1年間あたりの記録回数を1990年代と2000年代で比較したところ、アオサギは有意に記録回数が増加した。一方、コサギ、モズ、ホオジロ、オナガは有意に記録回数が減少した。これらの種の記録回数の変化は、調査地における生息個体数の変化と関係している可能性があり、さらに詳しい調査を行なう必要がある。

 

渡良瀬遊水地における鳥類の生息状況の季節変化  平野敏明

2006年10月から2009年5月にかけて、渡良瀬遊水地の3か所で鳥類の種数や個体数の季節変動を明らかにするために、年間を通してラインセンサスを実施した。その結果、3か所で合計109種を記録した。ヤナギの低木林の調査地3は、ヨシ原の調査地1と2より記録種数が少なかった。記録種数は3か所とも5月から8月の夏期に少なく、10月から4月の秋から春に多い傾向があり、また、どの調査地も9月から10月にかけて急激に増加した。個体数は、3か所とも10月から11月と3月から4月に多く、1月と5月から8月に少ない傾向があった。こうした種数、個体数の季節変動は、渡良瀬遊水地を利用する種の利用パタンと深くかかわっていた。渡りの時期には、オオジュリンやカシラダカ、アオジ、ツグミなどの個体数が著しく増加したことから、渡良瀬遊水地は、渡り鳥の通過地点としても重要と考えられた。なお、渡良瀬遊水地で実施されている秋の標識調査で多数捕獲・標識されているノゴマは、本調査ではまったく記録できなかった。ノゴマのような薮を潜行する種の生息状況を調べるには、標識調査やプレイバック調査との併用が必要と考えられる。

短報

渡良瀬遊水地におけるトラフズク標識個体の観察記録  深井宣男・内田孝男・松永将男

栃木県藤岡町の渡良瀬遊水地で2008年5月16日に足環の付いたトラフズクの雌1羽が撮影され、その写真から足環の番号が解読された。その結果、この個体は、2003年11月9日に捕獲標識され、その後2005年6月4日と同年12月10日に再捕獲された雌であった。